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ペットといっしょに考えよう

麦秋の頃
ペットといっしょに考えよう【】写真
通勤電車の車窓からながめる雑木林の青葉が目に沁みます。

そこに隣接する色付き始めた小さな麦畑を見つけた時は、妙に懐かしさを覚えました。半世紀以上も前のことですが、腕白時代をすごした東京の世田谷区は、いたる所に一面の麦畑が広がっていました。早春には農夫が後ろ手に麦を踏み、陽春にはヒバリが空高くさえずり、そして初夏には薫風が黄色の穂を揺らす「麦秋」の光景を思い出したのです。
 その後、麦畑はほとんどが住宅街に取って代えられ、見る影もありませんが、時代の変遷とともに急激に失った自然環境が今更ながら惜しまれてなりません。それと言うのは、国内の食料自給率が杞憂されていることもさることながら、自然環境の存在そのものが人間の精神生活にとって極めて重要な要素をもつからなのです。特に、昨今はより豊かな精神生活を求める一環として、人と動物(主として身近な犬や猫)の関わりがもてはやされています。これまでも小欄で度々ご紹介いたしましたように、もとより動物たちは人間社会に取り込まれた自然界からのメッセンジャーでもあるのです。ならば、動物たちを正しく理解し飼うためには、まず自然界(環境)との関係を学ぶ必要があります。
 ところが、大規模な環境破壊により、自然と掛け離れた人工的な都市に住む人々にとっては自然環境を学習する場所や機会がなく、理解の及ばぬままに、あたかも生きたヌイグルミを飼うかのような感覚でペットライフを始める結果、悪しき事例が後を絶ちません。動物と自然の関わる一例としては、アイツ(11才・32Kg)との散歩時にも痛感しているところです。目の不自由なアイツは、しばしば無機質なコンクリートの電柱やブロックにぶつかるのですが、不思議なことに雑木林の中では見事なスラローム(?)で木立を擦り抜けて歩くのです。多分、樹木の発する生命の息吹を察知するからなのでしょう。その他にもきめ細かく観察すれば、風向や涼しい緑陰の小径さがしなど、日頃のオットリした姿態に似合わず、自然と一体化した鋭い五感によるパフォーマンスに驚かされます。
 きっと、中年をすぎた方ならご記憶かと存じますが、ちょうど今頃の季節を詠みこんだ小学唱歌
「夏は来ぬ」の一節に、こんな歌詞(作詞:佐々木信綱)があります。
<I>・卯の花の 匂う垣根に 時鳥(ホトトギス)早も来鳴きて 忍び音もらす 夏は来ぬ
・橘の 薫る軒端(ノキバ)に 窓近く螢飛び交い おこたり諌(イサ)むる 夏は来ぬ</I>

 文明のレベルは現代とは比較になりませんが、それでもここには生物の多様性とともに、静かに自然環境に溶け込んで生活を営む日本人の豊かな感受性がしのばれ、ホッとした気分にさせられます。


財団法人日本動物愛護協会理事・事務局長 会田保彦

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