ペットといっしょに考えよう
境 界
しかし、そこここに武蔵野の面影を色濃く留めているこの地域でも、文明の前進ペースと自然の後退ぺースがはなはだしく、大型犬の十分な運動量を確保できる広さの雑木林は少なくなりました。そのために、あたかもビオトープに寄りつく虫たちのように、適宜な街路樹の下を伝い歩きしながら4〜5ケ所の林を巡ることになります。そして、ときには車で10数分離れた海抜200m前後の丘陵地帯にまで足を伸ばしています。 そこは、人里と奥山の「境界」であり、一見して何気ない処ですが、俗に「里山」と呼ばれて近頃では自然生態系保全の指標として俄かに脚光を浴びているところです。確かに、オオタカなどの猛禽類から湿地の水棲動物まで様々な生き物が生息し、処所にはマムシに注意の看板も掲げられています。沢山の動物たちが生息していることは、自然の摂理から言っても人間にとってすごし易い場所の証明となるでしょう。そう言えば、1962年に「沈黙の春」を発表し、世に環境破壊の警鐘を発した米国のレイチェル・カーソン女史(海洋生物学者)もまた、潮の干満により絶えず海と陸の「境界」を繰り返す波打ち際こそが生命を育んだ源であり、貴重な自然生態系として残さなければならないと主張しています。どうやら、自然環境保全のキィワードは「境界」と言えるかもしれません。 一方、身近な生活環境保全においてもやはり「境界」がキィワードとなりそうです。大は国際間のボーダーレスから小は男女間の格差減少まで、多くの障壁が次第に取り払われ風通しが良くなりましたが、反面では垣根一つ、ドア一枚の「境界」に頑にこだわって周囲との相隣関係を閉ざす人々の悩ましい問題が少なくありません。動物飼育に関わるトラブルもその典型です。常日頃からの穏やかなお付き合いがあれば、解決できることばかりです。即ち、豊かなペットライフを実践するには適正な飼育はもとより、その前に近隣との常識にもとづいた人間関係の構築を忘れてはなりません。野中の中の一軒家でもない限り、如何に住居そのものが快適であっても周囲とのコミュニケーションがなければ、砂を噛むような味気無い日々に、人間も動物も決して良好な生活環境とは言えないでしょう。 すべからく環境を保全するには、ヤマアラシの夫婦のように付かず離れずの程好い距離を保ち、「境界」の重要さをきちんと認識する判断力が必要かと思われます。 (財)日本動物愛護協会理事・事務局長会田保彦 |
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