ペットといっしょに考えよう
転位行動
それは、アイツの拾い喰い防止にもなるからです。飼い主に似たのか、犬個有の本能なのか、チョット目を離すと得意の嗅覚を活かしてやたらと口に入れたがるのです。そして、一度くわえた食べ物を取り返すのは容易でありません。ならば、見通しさえきけばこちらの目とアイツの鼻の勝負です。それらしきモノが判明できれば、すかさずリードを操作して食べ物に近付かせないようにいたします。 目前の食物を前にしてみすみす遠ざけられるアイツの恨めしそうな目つき、と言ったらありません。そんな時、次に決まって出るパフォーマンスが大きな生あくびなのです。動物行動学の上では「転位行動」と言われ、全んどの種が大なり小なり示すものなのです。一瞬の歓喜、興奮、欲求等が水の泡に帰した時のショックを鎮めるために起こす行動で、何とか気分転換をはかって常態に戻るために努力する姿形と理解すればよいでしょう。 猫についても同様です。例えば、こんな光景を目撃したことはありませんか。例の抜き足、差し足、忍び足で獲物の野鳥に接近して素早い右フックで一撃、とその瞬間に飛び立たれてしまった後の猫の姿です。たいていの場合、猫は前足を宙に浮かせたままの状態でしばらくの間たたずみ続け、やがておもむろにそこをなめながら毛づくろいを始めます。いずれもが、まるでそんな欲望には関心はなく、最初から生あくびと毛づくろいが予定の行動であったかのように何気無くとぼけています。 そう言えば、人間社会においてもしばしば同様なことを見受けますね。一生懸命に美人を口説いている男が、思わず背伸びして見栄を張ったり、見え見えの目的で言質を取られた際に、照れ隠しにネクタイを触ったり、落ち着きなく髪の毛をなでたりする行為がまさにそれです。ただし、こちらの「転位行動」は観察している方がバカらしくなり、所詮、動物たちのもって生まれた感性と自然な演技には遠く及ばない気がいたします。" "" "財団法人日本動物愛護協会理事・事務局長会田保彦 |
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