ペットといっしょに考えよう
いのちを育む
花が咲き乱れ、山も笑いだし、自然界は華やかに装いを一新しています。そして、動物界も各地でにぎやかなベビーラッシュが続いています。 中でも、出色のトピックスは日本で初めて誕生した神戸・王子動物園のアジア象の赤チャンでしょう。国内の動物園における長い歴史の中でも初めての快挙なのです。ゾウの赤チャンと言えば、かって10余年前に某サファリパークでアフリカ象が初の出産をした時に、縁あってその名付け親になったことがあり、当時の可愛い姿が思い出されて余計に興味がつきません。 ところが、神戸の母親ゾウはその後の様子がおかしいのです。無事に出産を済ませ、羊膜を足で踏みはずし、長いハナで愛撫を始めたのですが、ひとたび小ゾウが鳴き声を発するや突然にパニックを起こし、巨体で押し潰さんばかりに取り乱したそうです。飼育担当者の努力にもかかわらず、その後も同様な行動を繰り返すため、大事な虎の子ならぬゾウの子を守るために現在はやむなく人工保育で育てているそうです。 多分、母親ゾウは親からきちんと学習を受ける機会がないままに大人になってしまったのかもしれません。およそ犬でも猫でも同じなのですが、とかく幼令時に母親と一緒に過ごす時間を持てないままに成熟したメスの個体は、出産時こそ母性本能に促されて対応するのですが、その後はかすかな異変にすら動揺して育児を放棄したり、時には殺傷することすらままありえます。 動物界ばかりではありません。人間社会における子育て中の母と子もそうなのかもしれないのです。俗に「誰でも親にはなれるが、誰もが母親になれるわけではない」と言われ、頻発するむごたらしい乳幼児虐待事件の報に接するたびに、その思いを強くしていましたが、これら原因の根っこは自己中心的な享楽主義が横行する時代に甘えて育ち、親も子もいのちを育む学習を怠ってきたせいなのかもしれません。 ところで、アイツ(7才・37Kg)の場合は、だいぶ以前から親にも父親にもなれないままに拙宅の居候になったのですが、何といっても「氏より育ち」に恵まれ(?)、かっての寂しそうな顔はスッカリ影を潜め、実にのんびりと元気一杯に独身中年オヤジを謳歌しています。 財団法人日本動物愛護協会理事・事務局長会田保彦 |
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