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「臭いを嗅ぐ」
「白玉の歯にしみとほる秋の夜は」を迎えるにはまだ間がありそうですが、それでも動物愛護週間が終了するとともに随分と凌ぎやすくなり、アイツ(8才・37.5Kg)も精気を取り戻して散歩時間が長くなってきました。

しかし、猛暑は何とか乗り越えましたが、細かく観察をすればアイツの老化は静かに進行しているようです。このところ、歩く様相が明らかに違ってきました。元気一杯なのですが、それが視力よりもむしろ嗅覚に依存するかのような歩きかたになったのです。そのために、障害を避けるのが下手になる一方で、真っ暗な茂みの中からでも臭いを嗅ぎつけてはロストボールをレトリーブする回数が一挙に増えてきました。お陰で狭い庭中は一面のボールだらけです。ところで、今更ながらの素朴な疑問なのですが、何故に犬たちはあれほどボールが好きで執着するのでしょうか。少なくても先祖であるオオカミのDNAではなさそうだし、人と出合って関わりをもって以来、「犬」への進化の過程で取り込まれてきたものと想像しています。多分、犬の鋭敏な嗅覚を殊更に刺激する特別な「酸」が、人が手の平にかいた汗から発散されてボールにまみれ、臭いの痕跡を残すからかもしれませんが、それだけを頼りに確実にボールをゲットできる能力は、まさに視覚ではなく嗅覚の成せる技でしょう。

嗅ぐと言えば、大正時代から昭和初期にかけて活躍した歌人・若山牧水の作品の中に、「酒嗅げば一縷の青きかなしみにわがたましいのひた走るかな」という凄まじい作品があります。きっと、ひとたび酒の臭いを嗅ぐと、矢も楯もたまらずに全身全霊でそれを求めていったのでしょう。ご存じのように、旅に明け暮れるとともに、酒によって孤独を癒し、酒と歌が一体となった人生を貫いた人です。多少(?)は嗜好する者としてその生き様に強い感動を覚えたことがあり、寡聞ではありますが、臭いを嗅ぐことにこれほどの思いをこめた歌は未だに知りません。犬の嗅覚からいささか脱線しましたが、時には芳醇な香りを嗅ぎながら、「酒はしずかに飲むべかりけり」を実践したいものです。

早くも気象庁からは、今秋の各地における紅葉の見頃時期が発表されました。考えてみれば、生きとし生けるものの摂理として人も動物もやがては必ず滅びる訳ですが、木々の粧いもその一環なのです。プロセスとして肉体の一部から老化をしていくことはさびしいことですが、決して夢と希望は失いたくありません。本来、犬は嗅覚で社会活動をするものであり、アイツだって、たとえ視覚に頼らずとも、生活上で重要な役割をもつ嗅覚さえ健全であれば、これからもいつまでも、家族の一員として欠かせないパートナーであり続けてくれるでしょう。

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