ペットといっしょに考えよう
風の中で
アイツ(9才・37Kg)と休日に過ごす広大な公園は、空では風に逆らって飛ぶ3羽のカラスがボロ雑巾のような姿できりもみ状況となって喘ぎ、地上では枯れ葉が渦を巻いて体に襲いかかり、遠くの山並みは砂ぼこりで茶色に煙っています。さしもの桜の名所も人影は疎らで、こんな日に出歩くのは余程の物好きと思われたことでしょう。 しかし、負け惜しみではありませんが、たまには強風と遊ぶのもオツなものです。その3日前のことですが、一流のヨットマンとハングライダーマン(いずれの方も本協会のサポ−タ−)と会い、ウインドスポーツの醍醐味を聞かされ、それを肴に楽しい一夕を過ごしたことに触発されたのかもしれません。たかが犬の散歩ごとき(?)と比較するのはいささか気がひけますが、自然の荒れ狂う中を頭をカラにして風の吹くままに身を任せるという、滅多に味わえない体験は、セールがアゲインストかフォローか、とかの問題とは別の次元で無条件におもしろいものでした。日頃、風の強い日には小屋の中でヒーヒー鳴いて甘えるアイツも、何食わぬ顔でいつも通りにノッシノッシと歩き回っていました。 かつて、大平原を舞台とし、自然界に畏敬の念を抱きつつ強靭な肉体と魂を育み、風とともに生きてきた民族がいました。ネィティブアメリカン(アメリカの先住民族)です。彼等は、春の東風は花を咲かせ、夏の南風は作物を成長させ、秋の西風は実りの収穫をもたらせ、冬の北風は獲物を狩らせると、まさに四季の風の中に根をおろし、独自の生活文化を築きながら静かに暮らしていたのです。1492年にコロンブスが新大陸発見と称して上陸した当時、そこには既におよそ60の部族に分かれた100万人に及ぶ人々が生活をしていましたが、圧倒的な武力を誇る白人の前に領土への侵略と略奪を被り、わずか400年ほどで征服されてしまいました。かの「動物記」で名高いアーノルド・シートンを始め、多くの歴史家や宗教家は、「大地に同化し、自然との調和をはかることのできた世界で最も高潔で英雄的な民族である」と、彼等を称賛してやみませんでした。 20世紀を顧み、今世紀のキーワードは誰しもが「環境問題」と主張し、はや5年が経過いたしました。総論はともかくとして各論では各国の利害が交錯し、一向に環境改善は進展がなされないままに、自然破壊だけが繰り返されています。ならば今こそ、常に次世代以降の子孫たちを見据えて自然環境の保全に留意したネィティブアメリカンの英知を学ぶべきでしょう。さもなければ、せめて人間社会に取り込まれて自然界のメッセンジャーの役割を果たしてくれている身近な動物たちに対して、きちんと責任を持って適正な飼養を心がけることが、我々の努めです。 財団法人日本動物愛護協会理事・事務局長会田保彦 |
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