クジラ類のように生まれてから死ぬまで洋上で暮らすのではなく、海中で餌を捕り暮らし、陸上で子育てするという習性をもった鰭脚類の仲間のひとつがセイウチである。彼らは、北極海という冷たい水に被われた流氷域に生息している。
オスは体長3m、体重1000㎏、メスで体長2.5m、体重800㎏ほどになるといわれる、ヘビー級の鰭脚類だ。アシカやアザラシといったこの仲間の中でも、口の周りのヒゲが非常によく目立ち、このヒゲを使って水底の貝などを探りあて、餌にしているようである。だてに立派なヒゲを蓄えているわけではないのだ。さらにこのセイウチの、もっとも大きな特徴として挙げられるのが、巨大な牙である。これは上顎の犬歯が発達したもので、オスメス両方にあり、大型のオスでは1mにも達するといわれている。洋上から陸にあがるときこの牙を巧みに使うことから、学名には「歯で歩く」ということを意味する言葉が使われている。
アザラシやアシカ、そしてこのセイウチといった鰭脚類の仲間は、ネコ科やイヌ科と同じネコ(食肉)目に含まれる。とはいえその体つきはずいぶんと違うのにおきづきだろう。これは彼らが、水中というフィールドに暮らすのに適応したためだ。これらの仲間に共通してみられる特徴は、水中を移動するのに適したヒレのような手足をもつのにはじめ、いわばイモムシのような、突出物のない流線型の体をもっている点である。さらに冷たい環境でも支障なく行動できるように、豊富な皮下脂肪と上質な毛皮をもち、水中に長く潜るための呼吸法を身に付けている。
ゾウと同じく発達した大きな牙をもっているセイウチは、この特徴的な牙のために捕獲されることがある。象牙と同様、牙を使っての細工などに使用されるためである。日本でも各地の動物園や水族館で飼育され、人気者になっている海獣のひとつセイウチ。どことなく愛嬌のある動物を、人間の力で守っていかなければならない。 |