海で暮らす数少ない爬虫類、ウミガメ。世界の海にはウミガメの仲間が、オサガメ科1種、ウミガメ科7種の計8種類が存在している。
このうち黄色の地に暗褐色放射状の斑紋が美しい甲羅をもつのが、ウミガメ科の一種、タイマイである。タイマイは太平洋、大西洋、インド洋などの、珊瑚礁の発達した南洋の浅海で暮らしている。外洋を回遊するのはまれとされ、もっぱら沿岸にいるようだ。背中の甲板(甲らを形作っているひとつひとつのパーツ)が重なり合っているのも、このタイマイの特徴だ。この美しい甲羅を細工したのが、「鼈甲細工(べっこうざいく)」と呼ばれるものである。とても加工しやすく、美しいことから、昔から工芸品として利用されてきた。
タイマイを含むウミガメの仲間は、その生息環境である海洋の汚染そのものや、海岸の開発などによる産卵場所の減少、卵や肉を目的とした捕獲、また魚を目的とした漁業での混獲などにより、その個対数が減少してしまった。特にタイマイは、先にふれたように鼈甲の材料として利用されたため、商取り引きが盛んだった。結果としてこれらの仲間の中でも、絶滅のおそれが高い種類になってしまっている。今日では絶滅危惧種として、徹底した保護がなされており、CITESによりその国際商取引は禁止されている。
ちなみに「鼈甲」と言う言葉は、本来「スッポンの甲羅」をあらわす言葉であった。江戸時代に天保の改革をはじめとする贅沢を禁止した「奢侈禁止令」が出され、タイマイの甲羅の加工品は贅沢であるとして使用が禁止された。これに対し、人々が「タイマイじゃない。鼈(スッポン)だ」と言ったことに由来するという。 |