カワセミに似た姿をした、八つの色をもつ鳥がいる。その名もヤイロチョウ。警戒心が強くその姿を見せないことから、「幻の鳥」とも呼ばれている。
ヤイロチョウは、体長はおよそ20cm。クチバシが太く、尾羽が短く、ちょうどカワセミのような姿をしたスズメの仲間だ。名前にあるように体色は、赤、青、緑、茶など、色鮮やかな八色の羽毛の配色からなる。渡りをする鳥として知られており、日本へは夏鳥(夏の間を日本で過ごす)としてごく少数が渡来し、豊な自然が残った深い森で過ごすといわれ、分布の北限といわれている。
ヤイロチョウは動きが非常に速く、警戒心が旺盛なためなかなか姿が見えず、「幻の鳥」とも呼ばれている。繁殖期に特有な「ポポピー、ポポピー」というさえずりは聞かれても、姿が見えないという存在だったらしい。ちょうど日本に渡ってくるこの時期には、繁殖も確認されており、営巣はもっぱら広葉樹林の林床が多く、樹上というよりは地上に作られることが多いらしい。巣は枯れ枝や枯れ葉などによって作られ、ドームのような形をしており、コケなどを巧みに使うことにうより、あたりの環境に溶け込んでいる。このため外敵には発見しづらく、深い森の中ということも手伝ってその繁殖例はなかなか確認されていなかった。
子育ては雌雄が揃って行い、ヒナがかえった後は、その餌の確保に両親ともてんやわんやになる。主に虫などを与えるようだが、育ち盛りのヒナの食欲たるや半端ではない。満足する量の餌を確保するために、両親ともが林の中を飛び回る。こうして成長したヒナは、他の鳥と同様にやがて巣立ちを迎える。しばらくは親と一緒に暮らした後、秋が訪れる頃になると、越冬地となる暖かい地方へと旅立つのである。
夏をひかえた5月頃わが国へとやってくるこのヤイロチョウだが、ただでさえその渡りの数が少ない上、生息環境として好ましい深い森が減っていることで、その数の減少が懸念されている。1993年には天然記念物にも指定されており、絶滅危惧種として保護の対象にもされている。直接の保護もそうだが、何よりもそうした生息環境の開発を防ぐのが急務になっているのだ。安心して営巣できるような深い自然が、彼らの生存には必要なのである。そうした目的で、人の手があまり加わっていない彼らの生息地となる森林の保護が草の根的に進められている。いわゆるナショナル・トラスト運動だ。環境を守ることで、稀少な鳥たちを保護していこうというものである。極端に減少してしまった鳥類を、保護していこうという試みの困難さは、トキの例をみれば火を見るより明らかといえるだろう。 |