有袋類というと、コアラやカンガルーといったおとなしめの動物を想像するのではなかろうか? だが、80年ほど前までは比較的大型で肉食の有袋類がいた。フクロオオカミだ。
フクロオオカミは有袋類の中で、食物連鎖の頂点、いわゆるオオカミのような存在として暮らしていた動物である。獲物であるワラビーなどの小型カンガルーをどこまでも追跡する習性もさることながら、姿形も非常にオオカミに似ていたようだ。その外観でオオカミと大きく違っていたのはカンガルーのような尾と、有袋類としてメスの腹部に育児嚢があった点くらいである。それ以外の部分は、類縁が違った動物とは思えないほどオオカミに類似しており、頭の骨の構造なども非常に似通っていた。
フクロオオカミはタスマニアに分布していたが、以前はニューギニアやオーストラリアといったオセアニアの地域に広く分布していたとされる。夜行性で夜になると単独あるいはつがいで狩りに出かけ、ワラビーなどの小型のカンガルーや小型の獣などを狩っていた。
オセアニア区をつかさどる動物たちの生態系の中でも、このフクロオオカミは肉食獣として頂点に達しており、餌となる豊富な動物に囲まれ大自然のなかで悠々と暮らしてきた。そこに人間たちがやってきたのは3万年前頃からだとされている。北から訪れた人間は、同時期にイヌなども伴なっていた。小動物をエサとするイヌと競合したことで、フクロオオカミはまずニュージーランドから姿を消し、次いでオーストラリア、そしてタスマニアにだけ残る結果になった。なぜこのタスマニアにだけ残ったかというと、他の地域と異なり、そこにはイヌ科の動物が入らなかったためのようだ。しかし19世紀に入ると、タスマニアにもヨーロッパから羊などを伴なった多くの移民がやってきて、その家畜とフクロオオカミの間で新たな関係が生じた。フクロオオカミが羊を襲うことで、人々から敵対視され始めたのである。結果的にはあらゆる手段を使っての虐殺が始まり、最終的には政府による懸賞までかけられた。
現在ではタスマニアにすら、このオオカミのような姿をした有袋類はいない。1936年動物園で飼育されていたものが死亡したのを最後に、姿を消したと考えられている。 |