古来からの日本の色に「朱鷺色」という色彩がある。デリケートな表現をもった日本の色彩だが、文章で説明するなら、さしずめ限りなく白に近い朱色といえるだろう。
その色のモデルとなっているのが、「ニッポニア・ニッポン」という学名をもつ、トキの羽裏の色である。
もともとトキは、日本じゅうにいた鳥である。水田を中心にした水辺や湿地に生息し、小魚やカエル、昆虫などを餌としながら暮らしていた。しかしその美しい羽根を目当てに捕獲されたほか、水田を荒らす鳥として農業者に嫌われる存在となり、さらには農薬などの影響によってその数を減らしてしまった。もちろん開発による自然環境の悪化も、彼らの生存に大きな影響を与えることになったのはいうに及ばない。絶滅が危ぶまれだしてから、数羽の野生個体が捕獲され、繁殖が試みられたが、残念ながら成功にはいたらなかった。2003年10月に最後の日本産トキの「キン」が亡くなり、結果的に日本で暮らしていたトキは姿を消してしまった。
トキのその魅力的な姿が、日本の自然の中から消えてから久しいが、今日でもその野生での姿を取り戻そうと繁殖計画が進められている。佐渡のトキ保護センターでは、中国から譲り受けたトキを親として、99年から繁殖計画がスタート。徐々にではあるがその数を増やしており、10年が経過した現在では、日本にいるトキの数は100羽を越えている。2008年9月からはトキを佐渡島の自然の中に放し、野生に返す試みも続けられている。
そして繁殖計画から10年以上の歳月を経た2012年4月、ようやく自然下での雛の孵化が確認されるにいたっている。この雛たちが無事に育ち、親となることではじめて日本のトキの復活といえよう。今後の成長をあたたかく見守りながら、次の世代にも期待したい。 |