背ビレや腹ビレの棘が目立つことから、トゲウオの名前があるハリヨ。ハリヨは一般に産みっぱなしの多い魚たちの中で、なかなかの子煩悩ぶりを発揮する。
桜前線が北上し、ようやく春めいた陽気の日が多くなってきた。これからいわゆる水ぬるむ季節。さまざまな生き物たちの息づかいで、だんだんとにぎやかになってくるシーズンでもある。 水中の魚たちにとっても、にわかに恋のシーズンがスタートする。背ビレや腹ビレなどに目立つ棘をもつことから、トゲウオと呼ばれる一群の魚がいる。イトヨやトミヨといった魚たちである。ハリヨもその1種で、かつては湧水の豊富な清らかな流れをもった、中部地方から近畿地方の特定の河川で見られたようだ。しかし今日ではそして滋賀県と岐阜県の一部にのみ、みられるだけになってしまった。
ハリヨは、鱗板と呼ばれる鱗の変化したものが並んだ独特の体をした、全長6センチメートル前後の小型の魚である。トゲウオの仲間は、繁殖に当たって巣を作ることでよく知られている。ハリヨもまた産卵に当たっては巣を作る。繁殖はほぼ周年にわたって行われるが、春先集中して行われるようだ。水草や水中にある植物の破片で、オスがトンネル状の巣を作る。そしてその周囲自分のテリトリーを作って、他のオスが近づくと縄張りを守るための威嚇行動を行う。典型的なポーズとしては頭を下にした逆立ちのかっこうだ。一方でメスが近づくと盛んに自分をアピールする。この繁殖の時期にはオスには婚姻色が現れ、普段の体色に比べてずいぶんと派手になっている。そのいでたちでジグザクに動く独特のダンスを踊り、メスの気を引くのである。十分オスを吟味したメスはそのオスが気に入ればトンネル状の巣へと入って産卵し、受精が行われる。用がすむとメスはその場を離れ、巣はオスによって守られる。卵に新鮮な水があたるように世話をし、フ化してしばらくの間は稚魚たちの面倒もみる。産みっぱなしが多い魚たちの中では、実に献身的なハリヨのオスである。 |