北極海で暮らしているクジラの仲間イッカク。海中で暮らしているクジラ類の中でも、その姿は独特といっていいだろう
イルカなど歯クジラの仲間の中には口が尖ったものも多いが、このイッカクでは立派な角が長く伸びているのである。全長5から6メートルといわれているが、個体によっては3メートルもの立派な角をもつものも存在するらしい。名前のイッカクはまさにここからきている。 この角はオスの特徴になっているようで、メスではこれが発達しない(ごくまれにメスでも確認されることはある)。
伝説上の動物にユニコーンがいる。馬のような姿をした動物には、額の中央かららせん状に巻いた角が突き出ている。かつてはこのイッカクの角がユニコーンのものとされ、ヨーロッパでは珍重されていた時代があった。らせんを巻いて伸びるイッカクの角が、そのものずばりの姿をしていたためだ。
一般に角と呼ばれるものは、哺乳類では牛やヤギ、シカなどのように頭頂部に発達するものが多い。ではこのイッカクではどうなのだろう。実はこの角、彼らの前歯の1本が発達したものなのである。成長に伴いオスの左の前歯が少しずつ伸び始め、やがて皮膚を突き破って伸びていく。そしてこの角はオスの間での順位をアピールするために使われており、より立派で大きなものをもったオスが、メスとの繁殖の権利を得られるようだ。もちろん立派な角をもったイッカクであれば、おのずとその体も大きく、体力的にも勝っているのは容易に想像できる。かつては餌を獲るためとか、氷に穴を開けて呼吸をするためなどと考えられていた角だが、実際にはオスがその力を誇示するためのこの角を使ってちゃんばらのような戦いに使われるものとみられている。
ところでイッカクの学名だがモノドンという。これはラテン語で、「ひとつの歯」を意味する。飛び出るほど立派な歯を持っているイッカクだが、切歯以外に目立った歯はないのである。 |