潮が引いたとき一面に現れる泥の浜、干潟。日本でも最大の面積を誇っているのが九州の4県にまたがる有明海である。
その有明海の顔ともいっていい存在が、ムツゴロウというハゼの仲間である。全長18センチ前後。黒っぽい体に鮮やかなブルーの細かい斑点が入っり、ぎょろりと飛び出た大きな目のひょうきんな顔が印象的な魚のひとつだ。
以前から有明海のムツゴロウといえば、この地方の名産のひとつであった。「むつかけ」という独特の漁法もあるほどである。竿に重りのついたハリをつけ、肉眼で確認した魚めがけて仕掛けを繰り出し、引っ掛けて捕らえるという漁法である。まさに魚と漁師の真剣勝負だ。といってもムツゴロウがいるのは、広大な干潟のいたるところだ。漁師は潟スキーという独特の乗り物(スキーを幅広くしたような板で、それに体を乗せて片足で泥を蹴って進む)で彼らの姿を探し、先の1本釣りの漁法で漁をするのである。
さてこのムツゴロウだが、魚のくせに水を嫌うという一面をもっている。魚といえば一般に水中で活動し、エラという魚独自の器官を使って呼吸をしているのだが、ムツゴロウではこのエラ呼吸のほかに、皮フを使って呼吸する能力をもっているのである。そのため皮フさえ湿っていれば、それが陸上であったとしても呼吸することができるのだ。また口に含んだ水からも、酸素を取り込むことができるという。
魚といえば水中を泳ぐものだが、ムツゴロウの場合移動は通常胸ビレを使ってチョコチョコと動く感じである。さらに素早く移動する時は、身体をくねらせてジャンプするように進む。また繁殖期のオスは、メスをめぐってヒレを広げての求愛のジャンプをみせる。その行動は魚というにはあまりにもいさましく、みるものを魅了する。
この水を嫌うという天邪鬼な魚も、その生息環境の悪化と乱獲によって減少している。一方で、地域によっては保護エリアも設けられつつある。そうした動きがさら広がっていってくれればと願う限りだ。 |