イモリとヤモリ。名前は似ているがまったく別の生物だ。イモリは水中に暮らす両生類、ヤモリは陸上に暮らす爬虫類の仲間である。
日本で普通に見ることができるヤモリがニホンヤモリだ。ごく普通に民家の周りで見かける爬虫類で、大陸にも同じ種類がおり、おそらくはかなり古い時代に貿易船などで移入してきた外来生物だったのではないかといわれている。
彼らはものの見事に壁などに張り付くことができ、移動する様子もスピーディだ。これは四肢の指の裏側が特殊な構造になっているためで、指にヒダのような皮膚があり、そのヒダに細かい毛がビッシリと生えている。この構造により、壁面のわずかなでこぼこに張りつくことができるのだ。いわゆるカエルにある吸盤のようなものではなく、マジックテープのそれに似ている。こともなげに天井を行くさまは、まさに忍者のようだ。体長は10から15センチメートル程度。写真からもわかるように白っぽい体色をしているが、環境などによって変化する。夜行性でもっぱら夜間に活動し、明かりのそばで見られるのは彼らが明かりに集まった昆虫などを捕食しているためだ。かなり貪欲でもあり、自分より大きそうな蛾でも口に入るものなら積極的に襲う。
通常のトカゲの仲間は眼の部分にまぶたをもっているが、ヤモリはもっていない。ちょうど1枚の透明なウロコに覆われたような構造になっており、瞬きができないため、舌を使って目の表面をぬぐい、清潔に保っている。彼らの様子をじっと観察していると、しばしばその行動を目にすることができる。ヤモリ類独特のしぐさといえるだろう。
このニホンヤモリであるが、5月から9月にかけて、繁殖する。壁の隙間や雨戸の戸袋などに粘着する卵をふたつ産みつけるのだ。そしてまた面白いことに、オスになるかメスになるかを決定するのは、そのときの温度によるのだという。温度が28度前後であればオスに、それよりもかなり低かったり、あるいは逆に高かったりするとメスになるといわれている。夜天井を行く忍者は、その生い立ちもなかなかミステリアスである。 |