空想の生き物として、日本人に馴染みの深い「河童」。その元になったともいわれているのがニホンカワウソの存在である。
ニホンカワウソはイタチの仲間に属している。それからもわかるように、体つきはイタチやテンなどの哺乳類によく似ている。水族館などの人気者ラッコとも同じグループで、水中での行動に適応している点でも、よく似通っているといっていいだろう。ただラッコが始終水の中にいるのと違い、カワウソは通常は水辺に近い場所に巣を作って暮らす。もちろん泳ぎは上手で、流線型の体をくねらすようにして巧みに泳ぐ。手足の指の間には水かきが発達し、これで水をかいて進むこともできる。頭の上についた目と鼻のおかげで、水面に顔を出して泳ぐことができ、耳は小さく水中では閉じる。びっしりと体を覆う被毛は水をはじき、濡れてもすぐに乾くという特徴をもっている。つまり体のつくりが、水陸両用なのだ。
この良質な毛皮が、人間によって目をつけられてしまった。さらにその肝臓が肺結核の薬として珍重されたようである。1928年には狩猟獣からはずされてはいるが、その後も人々によって密猟され、広域に及んでいたその分布も、四国の一部に限られる結果となってしまった。これは人間による捕獲以外に、その自然の豊かさが関係しているためだと考えられている。水陸の両方を巧みに利用しながら暮らす彼らにとって、そのどちらもが残されている環境こそが必要だったのだ。そうした環境が残されていたのが、四国だったわけである。
ニホンカワウソの最後の聖地となった生息地にも、開発の波が押し寄せた。1965年には特別天然記念物に指定されたが、1970年代に写真に撮影されたのを最後に、その姿は確認されていない。少数が生息しているのではないかと推測されてもいるが、絶滅したのではないかという考え方もある。 |